週刊エコノミスト

週刊エコノミスト World Watch 「ニューヨークシティオペラ」

4月10日号、ワールドウォッチ・コラムへの投稿です。

週刊エコノミスト・Facebook

WORLD WATCH - N.Y.
ー伝統の「シティ・オペラ」 乗り越えた存続の危機ー

70年近い伝統を誇る「ニューヨーク・シティ・オペラ」。2月12日にヴェルディ作曲「椿姫」の舞台でシーズン開幕を迎え、5月までの短いシーズンに計4作の上演を予定する。今年初め、存続の危機を乗り越えて新たなスタートを切った。
ニューヨーク・シティ・オペラはチケット料金を低く設定し、地元の学校に音楽教育を提供するなど独自色を打ち出す。同じリンカーン・センターを本拠地とする超名門「メトロポリタン・オペラ」と対照的に、「庶民のオペラ」として親しまれてきた。しかし、ここ数年の景気停滞が経営を直撃。深刻な財政難に直面した。
オペラの経営陣は昨年から、出演ミュージシャン側とシーズンの短縮や賃金カットなどを含めた新たな契約の交渉を続けていたが、なかなか折り合わない。このため、今年1月8日、ミュージシャンを劇場から締め出す異例のロックアウトを決行。最終的には、9割近い最低保証賃金カットをミュージシャン側が受け入れた末、同19日に今後3年間の契約を結び、予定した開幕に何とかこぎつけた
米国のオーケストラやオペラは非営利団体で、チケット収入や行政からの助成の他に、企業や個人からの寄付に頼る構造だ。多くの団体は基金を確保し、経営の安定に取り組んではいる。しかし、根本的な課題は、観客の年齢層が上がり、若い世代が増えていないこと。このままでは近い将来、多くが存続の危機を迎えかねない。(伊熊啓輔・ニュージャージー在住ミュージシャン)

週間エコノミスト

「週刊エコノミスト」3月6日号に、コラムを投稿。

週刊エコノミスト編集部

WORLD WATCH - N.Y.

ー演奏会中に携帯アラーム ネットで顛末が世界にー

 

演奏中の静寂な場面を切り裂くように、観客席から突然、携帯電話のアラーム音が響いた。マーラーの交響曲第9番の最終楽章。不釣り合いなマリンバのアラーム音は2~3分鳴り続け、指揮者のアラン・ギルバート氏がとうとう曲の途中で演奏を中断した。

1月10日、ニューヨークのエブリー・フィッシャー・ホール。ニューヨーク・フィルハーモニック・オーケストラの奏者として、筆者もステージ上にいた。携帯電話の音で演奏が中断したのは初めての経験だ。中断後も鳴り響くアラーム音。指揮者が持ち主の男性に「止めてくれますか」と尋ねるも、返事がない。会場が騒然とする。ようやく鳴りやんだところで、指揮者が毅然と演奏の再開をオーケストラに指示。会場から拍手が沸き起こった。

演奏家や約2000人の観客には悪夢のような出来事だったが、今の時代ならではの思わぬ副作用も呼び起こした。直後からツイッターやフェイスブック、ブログなどで顛末が次々に広く伝えられた。生演奏ならではの緊迫感やそれを破るマナー違反の深刻さも、会場に居合わせた著名ブロガーが詳細をツイッターで即時に報告。瞬時に世界中で共有されることになったのだ。

男性もまさか自分の不注意が世界のネット上で話題になるとは思いもよらなかっただろう。その一方、男性に限らず誰もがいつ何時ともその対象になりうるということでもある。日々の行いから常に襟を正さずにはいられない。(伊熊啓輔・ニュージャージー在住ミュージシャン)