週間エコノミスト

「週刊エコノミスト」3月6日号に、コラムを投稿。

週刊エコノミスト編集部

WORLD WATCH - N.Y.

ー演奏会中に携帯アラーム ネットで顛末が世界にー

 

演奏中の静寂な場面を切り裂くように、観客席から突然、携帯電話のアラーム音が響いた。マーラーの交響曲第9番の最終楽章。不釣り合いなマリンバのアラーム音は2~3分鳴り続け、指揮者のアラン・ギルバート氏がとうとう曲の途中で演奏を中断した。

1月10日、ニューヨークのエブリー・フィッシャー・ホール。ニューヨーク・フィルハーモニック・オーケストラの奏者として、筆者もステージ上にいた。携帯電話の音で演奏が中断したのは初めての経験だ。中断後も鳴り響くアラーム音。指揮者が持ち主の男性に「止めてくれますか」と尋ねるも、返事がない。会場が騒然とする。ようやく鳴りやんだところで、指揮者が毅然と演奏の再開をオーケストラに指示。会場から拍手が沸き起こった。

演奏家や約2000人の観客には悪夢のような出来事だったが、今の時代ならではの思わぬ副作用も呼び起こした。直後からツイッターやフェイスブック、ブログなどで顛末が次々に広く伝えられた。生演奏ならではの緊迫感やそれを破るマナー違反の深刻さも、会場に居合わせた著名ブロガーが詳細をツイッターで即時に報告。瞬時に世界中で共有されることになったのだ。

男性もまさか自分の不注意が世界のネット上で話題になるとは思いもよらなかっただろう。その一方、男性に限らず誰もがいつ何時ともその対象になりうるということでもある。日々の行いから常に襟を正さずにはいられない。(伊熊啓輔・ニュージャージー在住ミュージシャン)